ブログ/2022-08

Top / ブログ / 2022-08

2022/8/3 (水)

「土を育てる」（ゲイブ・ブラウン著、服部雄一郎訳，

　　　　　　　　　　　　NHK出版、2022年5月）

「土を育てる」（ゲイブ・ブラウン著、服部雄一郎訳、NHK出版、2022年5月）を読みました。タイトルにちょっと魅力を感じたからです。「土を知る」「土の危機」などのタイトルは良く見かけますが「育てる」とは何ごと？と単純な興味をそそられました。

　さて、読み始めてみると、ゲイブさんは語り口がうまい。自分の等身大で具体的な話が進むので、とても読みやすいのです。第1章「絶望からの出発」では、ほほー、義理の親から引き継いだ農場で4年連続の自然災害を受け、再起できるかどうかギリギリに追い込まれた、と書いてあります。どうやって立ち直ったのか？とついつい引き込まれました。第2章「自然がよみがえる」の初めの文章は「「農場の自然がよみがえりつつある」と最初に気づいたきっかけは、ミミズだった。」とあります。何々？ミミズ？と読み進むと、土に生態系がよみがえってきた、「地中の菌根菌の数が増えはじめていた。」この菌根菌が「グロマリンという糊のような物質を分泌し、それが土の粒子の結合を助け、団粒化が進むことで、土壌に“間隙”ができる。この“間隙”、いわゆる「孔隙」は水分浸透の要となる。」とサラサラっと書いてあります。おっと、待てよ、この問題は土壌の物理性ではないか、と気になりだしました。

　土壌中の微生物と土壌の物理性との関係には、昔から興味を抱いていました。特に1947年のアリソン論文に出会ったときには、私が捜していたのはこれだ、と喜んだものです。アリソンは、土壌の透水性は微生物によってどのような影響を受けるか、という基本的な問題提起をし、水に浸した土壌の透水性は第1段階、透水性低下、第2段階、透水性増加、第3段階、微生物増殖による長期にわたる透水性低下、という3フェーズがあることを見出しました。アリソンの3フェーズとして有名になった概念です。私もこれを信奉し、その後日本の自然土壌で実験を繰り返し、どうやら土壌中の微生物を増やすと土壌の透水性は低下するようだ、との結論に到達していました。この研究では米国コーネル大学との交流も生まれました。

　この私なりの知識を、ゲイブさんは根底から否定するのです。私は、びっくりして、なおも「土を育てる」という本を読み進めました。そして、どうやら、菌根菌が分泌するグロマリンという糊のようなたんぱく質が団粒を促進する、という事実が自然界に存在するらしい、という確信に至りました。これは、どうしても実験的な検証が必要ではないか、土壌物理学者がこのテーマを解明すべきではないか、と考えました。だれか、「菌根菌による土壌団粒形成の促進と土壌の透水性・保水性の改善」という研究テーマを追究してくれないか、そんな思いがふつふつと沸き上がっているところです。日本にも「日本不耕起栽培普及会」といった団体がこういう経験則を普及させようと努力されているようです。学術の側も、アリソンの3フェーズ論を超えた新しい「土壌の物理性と微生物との関係」を解明してほしい、と心から願う次第です。書評のつもりが要望書になってしまいました。（宮﨑毅）
・・・・・・・・過去のブログ・・・・・・・・・
2021-08-06　自己紹介：「自然との共生をめざすコメつくり」を出版しました
http://mhk-koubou.com/index.php?%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%2F2021-08-06

2021-04-12　院生になった君へ
http://mhk-koubou.com/index.php?%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%2F2021-04-12

2020-09-24　世阿弥の風姿花伝を読む
http://mhk-koubou.com/index.php?%E3%83%96%E3%83%AD%E3%82%B0%2F2020-09-24