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硝酸塩濃度

硝酸塩濃度

畑の硝酸塩濃度をTDRでモニタリングする 
   
a. チャレンジ
 土壌水分状態を測定するテンシオメータの歴史は長いけれど,水銀マノメータに代わって手頃な圧力センサーが開発されたのは1980年前後である。そして,データロガーの発達と相まって畑の土壌pF(土壌水のマトリックポテンシャル)が自動記録(モニター)出来るようになった。土壌の誘電率から土の体積含水率を推定するTDR (Time Domain Reflectometry) は1980年にTopp等の研究により広く使われるようになり,1990年代には我が国でも普及した。また,TDRは土の体積含水率ばかりではなく土の電気伝導度も測定できることから,土中の溶質濃度を推定することが出来る。しかし,土壌水分の測定に比べて土中の溶質移動のモニタリングに応用した研究は少ない。研究の対象となる塩類集積の問題が我が国にないことが要因と考えられるが,土の電気伝導度から土壌溶液の溶質濃度への変換が単純ではないことも一因だろう。

農業活動が環境汚染に直結する問題として,窒素肥料の過剰施肥による地下水汚染があげられる。そこで,もし作土および下層土の硝酸態窒素濃度をモニタリング出来れば,施肥時期と施肥量の改善に結びつけることが可能になる。そこで,以下のような手順でTDRにより土中の硝酸態窒素濃度を実験的に推定することにした。なお,土の比電率から土の体積含水率を推定する方法は省略した。

写真1

 

b. TDRを用いて畑の硝酸態窒素濃度を推定する手順

1. TDRの出力値(コンダクタンス)と電気伝導度との関係を知る。

2. TDRによる土の電気伝導度(ECa, dS m^-1)) - 溶液の電気伝導度(ECw) – 土の体積含水率(θ)の 関係を得る。

3. 電気伝導度の温度依存性を明らかにする。

4. 畑における土壌溶液の電気伝導度と溶質濃度の関係を得る。

5.畑の硝酸塩濃度をTDRでモニタリングする。

 

c. 使用した土

 試験は北海道農業研究センターの札幌市月寒畑(洪積土)と十勝の芽室畑(火山灰土)を対象として行った。観測期間は2008年の10月から2010年の10月までである。

 

d. 試験法の詳細

1. TDRの出力値(コンダクタンス)と電気伝導度との関係
1-1 試験の手順
 土の体積含水率および電気伝導度はTDR100とプローブCS610(畑)およびCS640(室内試験)を用いた。TDRの出力値はマニュアルに出ている値を用いた。また,室内試験においては芽室下層土を対象に,TDRの電気伝導度に関する出力値(以後、コンダクタンス)と電気伝導度の関係をマニュアルに記載されている方法で求めた。あらかじめ20℃の恒温条件下に静置した水道水にKClを任意の量加え,ECメーター(TOA)により電気伝導度をTDRによりコンダクタンスを測定した。この作業をさまざまなECw (0.006~3.35dS m^-1間の8点)で行った。

1-2 結果の整理
TDRが出力するコンダクタンス(G)とECの関係を次式のように得た。

  ECw=5.77G-0.068   (R^2=0.9987)

この式は溶液の電気伝導度(ECw)で得られた式であるが,土の電気伝導度(ECa)においても成り立つ。

2. TDRによる土の電気伝導度(ECa, dS m^-1)) - 溶液の電気伝導度(ECw) – 土の体積含水率(θ) の関係
 TDRが測定するのは土の電気伝導度であり,これを土壌溶液の電気伝導度にいかにして変換するかについてはいくつかのモデルが出ている。この議論は土の熱伝導率と同様に土の3相の量と配置が問題となる。今回の試験では,Rhoades (1976)のモデルが頭の中にあり,ECaECwの関係を求める出発点であった。しかし,このモデルに忠実であるよりはECaECwの関係を試験結果に基づき表現することに主眼を置いた。

2-1 試験の手順
 試験は,溶液濃度は同じであるが土壌水分が異なるときにECaECwの関係を求めることから出発した。そのため,写真1のように,Richardsの不飽和透水測定法を参考にした装置を作った。試料円筒には内径11.4 cm,高さ10 cmのアクリル円筒を用いた。電気伝導度は温度依存性があるため以下の試験は25℃の恒温室で行った。試験の操作手順は次のようである。

1. 試料円筒に2 mm篩を通過した土を現場乾燥密度で充填する。反復数は2とする。

2. 円筒上端から2.5 cm,7.5 cmの位置の側壁にCS640プローブ(長さ7.5 cm,幅1.7 cmの3線  式)を2本挿入する。

3. 試料を下部メンブレンに載せ脱気した水道水で毛管飽和させる。

4. 上部メンブレンを試料に載せ,既知の濃度のKNO3を負圧数cmの状態で浸透させる。

5. 電気伝導度計(Horiba B-173)で測定した流出水の電気伝導度が流入水の電気伝導度に等しくなっ てからTDRにより体積含水率(θ)と土の電気伝導度(ECa)を測定する

6. 試料上部のメンブレンを取り去る。

7. 流出口のコックを閉じたまま,流出口を試料の中心から200cmの位置に下げる

8. コックを開き,流出水量が約5 mLになったらコックを閉じてTDRでECaθ測定する。この操作 を繰り返す

9. 8の操作では,θを測定しているので必ずしも5 mLである必要はない。マトリックポテンシャル 領域としては毛管飽和から-200 cmに相当する。

10.流出口のコックを閉じ,流入する溶液の濃度を変更して,4から10を繰り返す。溶液濃度は電気伝導度が0.1から0.9 dS m^-1まで0.2 dS m^-1の間隔とした。このためには溶液の濃度(mol L^-1)と電気伝導度(dS m^-1)の関係をあらかじめ求めておく必要がある。溶液濃度を決める際に重要なのは,畑でモニタリングしたい硝酸態窒素の濃度の値である。畑から採取される土壌溶液には硝酸塩以外に塩化物イオンや硫酸イオンが含まれることから,室内実験で低濃度の硝酸塩溶液を対象としても畑では他の陰イオンに邪魔されて濃度を推定することは出来ない。

11.土の種類と層位を変えて1から10を繰り返す。

2-2 結果の整理
 この節の最初に書いたように,ECaECwの関係を考える際には次式のRhoadesのモデルを頭に描いていた。

  ECa=TθECw+ECs    (1)

ここで,Tはtransmission coefficientで体積含水率(θ)の関数,ECsは固相の電気伝導度である。そこで,縦軸にECa,横軸にECwをとって試験結果を整理した。図1は月寒Ap層の結果である。体積含水率は0.40, 0.45, 0.48の3つを図示しているが,いずれも直線関係で表されている。図2は図1の勾配を体積含水率との関係で表している。興味深いことは図1の勾配が体積含水率の1次関数であるという点である。次いで図3は図1の切片を体積含水率の関係で図示している。切片は体積含水率にかかわらず一定のようである。以上の3つの図をもとに,次の式が得られる。

  ECa=(1.133θ-0.2769) ECw+0.11   (2)

(2)式は,次のように書くことが出来る。試験に供した土壌のa, b及びcの値は表1に示した。

  ECa=(aθ+b) ECw+c   (3)

(1)式と(3)式は形の上では類似点を持つが,(3)式は純粋に,電気伝導度が0.1~0.9 dS/mの硝酸カリウム溶液を用いた実験結果から得られたものである。理論的な考察は行っていない。

 図1

 

図2

 

図3

 

表1

 

3. 電気伝導度の温度依存性

電気伝導度には温度依存性があるため,野外において測定した電気伝導度は温度補正を行い,一定温度条件で比較する必要がある。

3-1 試験法
TDRプローブを挿入した土壌試料を温度が変化させることのできる恒温庫の中に静置し,さまざまな温度(0.4~20℃,8点)と25℃における電気伝導度(ECa(T))を測定し,20℃における土壌の電気伝導度(ECa(20))との関係を求めた。

3-2 結果の整理
 電気伝導度の温度依存性は一般に次式により表される。

 ECa (20)=f(T) ECa (T)   (4) 

f(T)は温度関数,ECa(20)は20℃のときのECaECa(T)はT℃のときのECaである。本研究では,以下の温度関数式を得た。

 f(T)=1/(1+0.024(T-20) )  (R^2=0.876)    (5)

f(T)は通常,25℃の電気伝導度を基準に変化率(分母の第二項にかかる係数)を2 % ℃-1 (あるいは1.9 % ℃^-1)で表現した事例が多い。しかし本研究では,20℃を基準とし,変化率には独自に求めた値(=2.4 % ℃^-1)を採用した。(4), (5)式を使って,圃場で観測したT℃のときのECaを20℃の値に変換した。

4. 畑における土壌溶液の電気伝導度と溶質濃度の関係を得る。

4-1 試験法
 畑においてTDRを埋設した深さと同一深に素焼きカップ(直径1.8 cm長さ6 cm)の中心がくるように採水管を2本埋設し,ほぼ1ヶ月に1度の間隔で採水した(溶液採取法は後日書きます)。採取した土壌溶液のECwは電気伝導度計で測定するとともにイオン分析器(東亜IA-100)により,硝酸イオン(NO3),塩化物イオン(Cl),硫酸イオン(SO4)の濃度を測定した。

4-2 結果の整理
 図4に月寒Ap層から採水し電気伝導度計で測定したECwと陰イオン濃度との関係を示す。ECwとNO3濃度との関係,ECwとNO3+ Cl + SO4濃度との関係とも直線で表せる。また,後者の直線が原点近くを通ることから,この畑の主要な陰イオンはこの3種であることが分かる。月寒Ap層のCl + SO4の平均濃度は1.44 mmolc L^-1であった。Cl + SO4の平均濃度は芽室の作土で0.81mmolc L^-1と1以下であったが,それ以外の層では表2に示すように1.5 mmolc L^-1前後の値であった。ECw (dS m^-1)とNO3濃度(mmolc L^-1)との関係は次式で表される。

  NO3ECw-β   (6)

ここで,αとβは表2に示すように定数である。また,ECwがβ/αに等しいときNO3濃度がゼロになる。その値は,月寒Apでは0.16 dS m^-1であり,他の層は0.1~0.17の範囲にあった。詳細な検討はしていないが,このことはECwが0.2 dS m^-1以下ではNO3濃度の予測は難しいことを示している。

図4

 
 

表1

 
 

図5

 

5. 畑の硝酸塩濃度をTDRでモニタリングする。
 畑に埋設したTDRと熱電対の連続データを用い,ECaの値を(4)式に代入して20℃の値にに変換する。また,TDRで測定したを(2)式に代入することで土壌溶液のECwを求め,さらに(6)式に代入することで土壌溶液のNO3濃度を推定した。このモデルから推定したNO3濃度と約1月ごとに素焼きカップで採水し,イオン分析計で求めたNO3濃度を図5に示す。右の図の上には,降水量と施肥窒素量(kg ha^-1)を、下には硝酸塩濃度に土壌水分量と土層厚を乗じ0-60 cmに含まれる硝酸態窒素量をha単位で示してある。

図5の一連の図が実測値を表現しているかどうかは多いに議論が必要であるが,TDRと地温の測定を組み合わせることで,畑の硝酸塩濃度の推移をモニターできる可能性は示されたと思う。残された問題点しては,例えば,TDRはプローブが30cmあるのに対し,素焼きカップで採水される溶液量は数mLであるという問題がある。畑においては,硝酸イオンの移動が必ずしも水収支から予測できないことは良く経験する。また,(2)式のモデルは高水分領域に対してあられており,低水分領域が卓越する浅層におけるECwの推定ができていないことなどがある。さらに,土壌溶液には複数の陰イオンが共存するので,どのような場合(施肥や降雨との関連で)に硝酸塩濃度が推定できるかの目安も重要であろう。

畑において土壌溶液濃度をモニタリングすることはチャレンジングなことであり,ここに書いた手法を参考に測定法を確立して欲しい。

TDRを用いて畑の硝酸塩濃度をモニターする研究は,環境省のプロジェクト研究 A0807気候変動に対する寒地農業環境の脆弱性評価と積雪・土壌凍結制御による適応策の開発(代表,廣田知良)によって行われた。研究成果は2013年4月4日の最終報告書に記載されている。

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