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水田湛水層の対流速度の測定と自動化

水田湛水層の対流速度の測定と自動化

1.はじめに

水田の湛水層では自然対流が生じていることが知られている.この対流は,湛水層を撹拌し,層の中に含まれる酸素などのガス組成や溶質を均一にし,大気と水田土との間のエネルギー輸送と物質移動を早めている.さらに,土壌表面における生物活動を活発にしている.

このように水田の物理的機能の重要な役割を担っている湛水層の対流がどの程度の速さかを知るには対流速度を測定する必要がある.しかし,深さ5㎝程度で生じている自然対流の速度を測定する装置はなく,試作するしかなかった.

そこで,以下にどのようにして測定装置を作ったか,その過程でどのような問題が生じ,それを克服してきたかを記す.

かなり以前のことなので,できるだけ思い出して書いたが,不十分な点はご容赦願いたい.
(Fujimaki et al., 2000)

2.測定原理(方法)の選定

流速を測定するには水理学などでもさまざまな原理にもとづく方法が考えられ,製品化されているものもある.

このなかで私たちが注目したのは,細線加熱法である.この方法は空気の流れの測定やガスクロ(TCD)など様々な分野に利用されている.原理は,一定時間に一定量の発熱をさせる細線を流体中に置いたとき,流体の速さに応じて細線から熱が奪われる.この時の細線と流体との温度差を測定することにより流速を知ることができることを利用したものである.(TCDは,組成の熱伝導率が違う流体が一定の速度で流れている場合,熱の輸送量が異なることを利用している)

この方法は測温抵抗線を用いた熱伝導率を測定する方法の応用であり,必要な装置も手元にあった.

3.水田用熱線流速計センサー

電気抵抗値の温度依存性が小さいコンスタンタン線を熱線にし,これに測温抵抗用のニッケル線を張り合わせることで,熱線の温度を測ることにした(コンスタンタン線は熱電対の素線を利用した).この方法は原理的には水温が変化しないことを前提にしている.しかし,水田では水温は常に変化するので,水温と熱線との差温を測ることにより,熱線の温度変化を得ることにした.また,湛水中のどこでも対流速度が同じではないと考えられるので,ある程度の長さ(面積)について対流速度を測定し平均化する必要がある.

そこで,図1のようなフレームを作り,これに熱線の温度を測定する抵抗線(図中Constanntan線-Ni線)と水温を測る抵抗線(図中Ni線)とを交差させてセンサーを作った.熱線と水温測定の線の長さは同じにし,長さは約50 cmとした.この大きさだと,イネの株間に十分設置できる大きさである.
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図1. 対流測定の原理とセンサーの概要((a)は回路図,(b)は平面図,(c)は側面図)
(コンスタンタン線: 0.1 mmφ,60 Ω/m,Ni線: 0.11mmφ, 10Ω/m)

測定方法は,「装置を作る_応用編」の「ヒートプローブ(1,2)」の後半部分の「ヒートプローブの製作(2) 金属抵抗線によるプローブ温度測定タイプ」と全く同じである.ただし,温度測定は上昇部分のみである.
 
実際の温度変化は図2のようになる.図2は水中においた細線の発熱量を変えた時の温度変化である.実際の温度差は細線に加熱開始してから温度差が安定する一定時間後(80秒後)に開始し,1分間の平均値を温度差とした.実際の水田では温度差のばらつきが室内での測定より大きいので平均化の操作は不可欠である.
画像の説明
図2.センサー出力を変えた場合のセンサーの温度変化

4.キャリブレーション

対流速度のキャリブレーションは最大の難関だった.
いろいろ考えた末に,水を動かすのではなく,センサーを動かすことを考えた.すなわち,長さ1.3 m幅0.3 m深さ0.3 mほどの水槽を作り,この上にレールを渡して車輪を付けた台車にセンサーを取り付け,釣り糸で引くことを考えた.レールと車輪は,家具用の引き戸に使うレールと戸車を使った.

速度は研究室に放置されていた古いチャート式記録計の紙送り機構を利用した.すなわち,紙送りの部分に糸を巻きつけて引くようにした.紙送りはシンクロナス・モータ(周波数に同期して回転するモータ)が用いられていて,非常に精度が高く,しかも記録計の場合,記録スピードが変えられるので,キャリブレーションには都合がよかった(図3).

発熱量と温度差は試行錯誤の上で決定した(10mW/cmの出力が最適であった).この条件で,温度差と速度が線形に対応していて,ゆっくりした対流速度の測定に十分使えることが分かった.(図4)

画像の説明

図3. キャリブレーションのための測定装置の概要

画像の説明

図4. センサーの移動速度(対流速度)と温度上昇

5.水田での計測

水田での対流の日変化は,スリランカからの留学生のモウジュード君が徹夜で測定し,とてもいいデータを得ることができた(図5).
画像の説明
図5. 実際の水田における対流速度の1例(21-22/June., 1999)

この図から,たとえば,対流速度が0.1㎝/sとすると,1分間で深さ6㎝の湛水層では1回撹拌が行われることになることがわかる.

しかし,ほどなく,難問にぶつかった.温度測定用に使っているニッケル線がどういう訳かぶつぶつに切れてしまうのである.線を強く張り過ぎているのではないか,はては誰かのイタズラか?などさまざま検討した結果,湛水がニッケル線を溶かしてしまうことが分かった.とくに,熱線に使っているコンスタンタン線は銅の合金であり,イオン化傾向はNi>Cuである.一方,コンスタンタン線もニッケル線も表面を絶縁材でコーティングしてあるが,たぶん,小さなクラックができているため,湛水に触れると表面積が大きいこともあり容易に電解してしまうと考えられた.

そこで,できるだけ丁寧にバスコークでニッケル線をコーティングし直すことで対応できた.

6.小さな気泡の析出

難問は次からつぎに現れる.最後は,センサーに小さな泡が析出することである.

水田の湛水中には,日中は酸素が過飽和状態で溶解している.これがセンサーのコーティング物質などの小さなくぼみに析出してきて,熱の移動を妨げ,結果として対流速度の測定を邪魔する.長期間自動測定をしようとする場合,この気泡の処理が不可欠となる.

この泡をなんとか外したい.そこで,最初に考えたのは振動で振い落せないか,ということだった.振動する装置をいろいろ検討した.超音波洗浄機の発振部分や,携帯電話のマナーモード用に使われている振動素子などいろいろ挑戦した.しかし,どれも完全に気泡を取り除くことができなかった.

さて困った,どうしようかとセンサーを水中から持ち上げたところ,当然ではあるが気飽は水面で離れた.そこで,「これにしよう!」つまり,測定の度ごとに水中にセンサーをゆっくり投下することにした.これは卒論のテーマとしてやってもらった.この自動化は後に花山氏に引き継ぎ完成した (花山ら, 2008).

引用文献

Fujimaki Y., Mowjood MIM. Kasubuchi T.(2000):Measurement of convective velocity of ponded water in a paddy field. Soil Science 165:404-411

花山奨・粕渕辰昭・安中武幸(2008):田面水の対流速度を測定する装置の改良. 土壌の物理性109:51-56

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