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土中水分量測定   0次元から1次元へ

土中水分量測定 ー0次元から1次元へー

はじめに
 土中の水分量(含水比,体積含水率もしくは水の存在量)の測定は,通常は点(といっても大きさはあるが)の測定である。畑地灌漑において灌水量を決定するには,根群域の降雨後の48時間水分量と作土が-0.1 MPaになったときの根群域の水分量の差を知る必要がある。また,作物に吸収されなかった硝酸態窒素はやがて地下水汚染につながるが,硝酸塩が地下水に到達する時間を推定するためには,降水量から蒸発散量を引いた年浸透量に加え,根群域や下層土の年平均水分量の値が必要とされる。いずれも点ではなく長さ(深さ)のある土層に含まれる水の量を知らなければならない。

従来の方法
 根群域(根群域の決め方も1つの難問ではあるが)のような土層全体に含まれる水の量を求めるときに通常行われるのは,点の測定を行うセンサーを深さ方向に数多く配置し,次のようにして求めるのが普通である。根群域の深さL (mm),根群域の水分量W (mm),1個のセンサーが測定する体積含水率θ (m^3 m^-3),そのセンサーで代表させる土壌の長さl(mm)とすると,
L=∑li であり,W=∑θi liとあらわされる。

 このようにして水分量を測定するセンサーとしてよく使われてきたのがテンシオメータと石膏ブロックである。テンシオメータを使う場合には別途水分特性曲線を求め,マトリックポテンシャルから体積含水率に変換する必要がある。現在ではほとんど使われなくなった石膏ブロックは厚さ2 cm程度の石膏に埋め込んだ1対の電極間の抵抗が土と平衡した石膏の水分量の関数で表されることを利用する。この場合も電気抵抗と土の体積含水率の関係をあらかじめ求めておく必要がある。このような方法では,L=1 mで5個のセンサーを埋設すると,l= 20 cmとなり,20 cmの中では水分量は一定と見なす。

点から線の測定(熱伝導率を使う)
 土壌の熱伝導率(λ)は,土粒子,水そして空気の存在量とそれらの配列の影響を受ける。したがって,乾燥密度と体積含水率(θ)が同じでも,不攪乱土と攪乱土のλは同一ではない。一方,熱伝導率は土壌水分の増加と共に高くなり,低水分及び高水分領域を除くと,λθの関係は直線で表される(Kasubuchi, 1992 )。本ホームページに説明してあるように,土の熱伝導率を測定するヒートプローブ(センサー)には2種類ある。ここでは,ヒートプローブの製作(2)金属抵抗線によるプローブ温度測定タイプを採用して熱伝導率と土壌水分の関係を求めた。このタイプの特徴はプローブ長に等しい金属抵抗の温度依存性を利用していることである。

 風乾した腐植質黒ボク土作土に水を加えて水分量の異なる3種の土を用意した。四角い箱にこれらの土を1層が10 cm,乾燥密度が0.90 Mg m^-3となるよう充塡し,層界には水移動を遮断するために薄いビニールシートを敷いた。充塡後の体積含水率は図1のようであり,長さ20 cmのヒートプローブを各層に水平に挿入すると同時に,層をまたぐように鉛直に挿入した。水平及び鉛直に挿入したプローブから得られた熱伝導率と体積含水率との関係を図2に示す。図から明らかのように,異なる層に挿入した鉛直のヒートプローブは加重平均水分量を表していることが分かる。つまり,測定される熱伝導率(つまり水分量)はプローブ長全体の平均体積含水率である(Kasubuchi and Hasegawa, 1994)。また畑では,長さが5 mと10 mのプローブで測定した作土の熱伝導率は畑の平均体積含水率を測定していることが確かめられた。ヒートプローブの利点は,プローブ(1組の電熱線と抵抗線)は1本であること,材質を適当に選べば比較的自由に曲げることができること,プローブの長さに制限がないことに加えメンテナンスフリーということがあげられる。一方,プローブを埋設する土壌は均一という制約がある。土壌以外のヒートプローブ法の応用としては,固相の熱伝導率の小さい有機物を多く含む多孔体の温度,水分管理が考えられる。

図1

図2

点から線の測定(誘電率を使う)
 TDR (Time Domain Reflectometry)は土の誘電率を測定する。空気の誘電率を1とした場合の比誘電率は,土粒子は3~7,水は約80である。したがって,土の誘電率は含まれる水の量の影響を強く受ける。このことを利用して土壌水分量を測定する。熱伝導率が3相の割合ばかりでなく,配列(土壌構造)の影響を受けるのに対し,誘電率は3相の割合(固相率)の影響しか受けない。したがって,畑で採取し,篩を通過させた攪乱土を畑と同一の乾燥密度でカラムに充塡することにより,畑の土の比誘電率と水分量の関係を得ることができるという利点がある。

 TDRは1990年代には我が国でも普及した。土壌に挿入する市販のプローブ(センサーやロッドという用語も使われている)の多くは,エポキシ樹脂等の頭部から長さが10~30 cm程度の2本または3本の平行な金属棒が出ている。そして,畑ではもっぱら水平方向に金属棒を挿入して水分量を測定することが多く,金属棒の長さに相当する土中水分の測定ができることは余り知られていないようである。一方,ここで紹介するプローブは長さ30と100 cmのステンレス製の2本の金属棒そのものであり,金属棒長に相当する土中の水量を測定することを目的とする。

 淡色黒ボク土畑の保水量の変化を調べるため,2本の金属棒を5 cm離して平行になるよう土中に挿入し,0-30 cmおよび0-100 cmの土層が含む水量をモニタリングした(Hasegawa, 1997)。そのときに気のついた点,工夫した点,改良した点である。測定に用いたcable testerはTektronix社の1502Bでありマルチプレクサ(MDR50)を接続して8チャンネルとした。マルチプレクサと金属棒は50オームの同軸ケーブルでつないだ。同軸ケーブルの一端はマルチプレクサに接続するためのBNCコネクタをつけ,他端は中心部の銅線と周囲のシールド線に金属棒に固定するための端子をつける。金属棒の先端は土に入れやすいように鋭角のテーパーを付け,他端には端子と金属棒を3 mmのネジで固定するために雌ねじを切った。旋盤を使うとステンレス棒の先端をテーパーにする,他端にねじ切り用の下穴を開けることは容易に出来るが,ステンレスは硬い材質なので,タップで3 mmのねじ山を切るのは簡単ではない。折れてしまったタップの先は外すことはできない。金属棒のみを使うこの測定法では土の比誘電率を求めるために,同軸ケーブルの長さと金属棒の長さを入力する必要がある。その他の具体的な手順は説明書にしたがって行う。広告ではないが,このcable testerと同じ機能を有し現在入手しやすいのは,太陽計器が販売しているCampbell社のTDR100である。

淡色黒ボク土にToppの式は使えるか
 Topp et al. (1980)は,体積含水率が0.6 m^3 m^-3未満では,θは土の比誘電率(K)の3次関数で以下のように表せることを発表した。
  θ=-5.3 × 10^-2 +2.92×10^-2 K -5.5×10^-4 K^2 +4.3×10^-6 K^3
ここではこの式をToppの式と呼ぶ。この式はuniversal equationとも呼ばれ土の種類によらず成り立つことが多いが,黒ボク土や有機物含量の多い土には適用できないことが知られている。そこで,畑から採取した作土を含水比32~35 %まで乾燥させて0.8 mm篩を通過させ,直径15.5 cm長さ40 cmの塩ビ製の円筒に乾燥密度が0.85 Mg m^-3,1層の厚さが5 cm,最終的には全長が37 cmになるよう充塡した(「土を詰める」の項参照)。TDRが測定する領域は,5 cm離れた平行金属棒を囲む長さ 7 cm,幅3 cmの矩形であるので,塩ビ製の円筒は十分な大きさであったといえる。また,深さ方向の測定領域は金属棒の長さに等しいと考えた。

 マルチプレクサ(MDR50)が8チャンネルあったので,土柱も8本作った。初期水分状態のTDRによる測定が終了後,各土柱の水分量が2 %ずつ異なるように水を加えた。その後,ほぼ3日おきに5 %に相当する水を加え,加えた水量から土柱の平均体積含水率を計算するとともに,TDRを用いてToppの式から体積含水率を得た。結果を図3に示す。両者の体積含水率が直線近似できる領域では体積含水率に10 %程度の差があった(この作土の風乾時の含水比は約12 %である)。低水分の3点は乾燥した土を別途充塡して求めた。以上の結果からTopp式は適用できないが,水分領域を限定すればToppの式の直線部を使うことで実測値の体積含水率が容易に求まることが明らかにされた。

画像の説明

どうやって100 cmの金属棒を畑に挿入するか
 TDRでは平行な2本の金属棒を用いる。同軸ケーブルに対応させると,1本は中央の銅線に,もう1本は銅線の周りのプラスチックを取り囲むシールド線に相当する。そのため,2本の金属棒はできるだけ平行に挿入するように工夫した。そして,以下のような挿入法(写真1)で問題のないことが分かった。最初に地表面が水平となるように水準器と立ち鎌等を用いて成形する。

 一方,室内でキャリブレーションに使った直径15.5 cm長さ40 cmの塩ビ円筒と蓋を用意する。塩ビ円筒の底と蓋には直径5.2 mm,中心距離が50 mmの穴を開けておく。蓋は側面をビニールテープで塩ビ円筒に固定するようにする。2本の金属棒を上下の穴に通したとき,ねじれがなく鉛直になるように蓋の角度を調整する。金属棒の挿入は金槌で叩いて行うが,金属棒のねじ穴を潰さないように,写真のように直径5.2 mm長さ20 の穴を開けた真鍮製のキャップを金属棒に載せ,キャップを叩いた。金属棒が約60 cm土中に入ったら,塩ビ円筒を外し,長さ5 cmの円筒(写真では実験室に転がっていたアクリル製)に替えて金属棒を90 cm程度まで挿入する。最後はキャップを取り,円筒を外してガイド無しでできるだけ鉛直に押し込む。金属棒と土との間に隙間が出来てしまったときは,まわりの土で埋める。

画像の説明

畑におけるキャリブレーション
 TDRは金属棒の長さに相当する土層の平均体積含水率を測定するので,考え方によってはこの土層に含まれる水の量を測定しているとも言える。畑において先ず行ったのは,深さ別の乾燥密度含水比の調査である。その結果を表1に示す。乾燥密度からは深さ30 cmまではほぼ同じであるが,20-30 cm層の含水比が高いことから下層土を一部含んでいる(過去の深耕の履歴かもしれない)が作土と見なした。一方,下層土は深さ80 cmを境に含水比乾燥密度とも少し異なっている。しかし,30-100 cmまでを同一の下層土と見なした。その結果,0-30 cmは乾燥密度が0.8 Mg m^-3の作土,30-100 cmまでは乾燥密度が0.55 Mg m^-3の下層土となった。

画像の説明

 TDRで測定される水分量は30 cm金属棒では作土の平均体積含水率(θ0-30)を100 cm金属棒では作土と下層土を含む深さ100 cmまでの平均体積含水率(θ0-100)を示す。直接採土で得られる含水比をもとに以下の式で計算される平均体積含水率とTDRが示す体積含水率とが一致するかどうかの検証を行った。
  θ0-30=0.8ω1
  θ0-100=0.8ω1×0.3+0.55ω2×0.7=0.24ω1+0.385ω2
金属棒は図4のように南北6 mの線に沿って埋設した。含水比土柱採取器を線から0.5,1.0,2.0 m離れた線上で1 m間隔で3本ずつ採取した。土柱の採取日はTDRで得られる平均体積含水率のデータを見ながら,1994年12月20日,1995年4月19日,1995年8月1日に行った。また,金属棒を撤去した1995年12月13日には金属棒を埋設した8地点と金属棒1の近くの2箇所から土柱を採取した。採取後,土柱は10 cmごとに切断して含水比を求めた。さらに,0-30 cmの平均値をω1,30-100 cmの平均値をωとした。土柱の採取法は,土柱採取器の項を参照のこと。以上のように,TDRと直接採土から求まる体積含水率の検証に1年を費やした。

画像の説明

 Toppの式と直接採土による体積含水率の関係を図5に示す。前項の図3と同じくToppの式から計算される体積含水率は直接採土から計算されるそれよりも過小に評価した。しかし,両者の関係は直線で近似でき,決定係数は高かった。大切なことは,現場で起こりうる水分領域を対象にキャリブレーションを取ることである。こうすることで,両者の関係が単純な形で表現できることは案外多い。TDRを用いて土壌水の溶質濃度を求めるときも,畑で実測される濃度領域に限定することで両者の関係は単純化できることは,硝酸塩濃度の項で示したとおりである。

画像の説明

 図3と図5における反省点は,Toppの式を使わずに,自ら得た比誘電率と含水比から求まる体積含水率の関係を用いるべきだったことである。より加工されていないデータで議論することは大切である。

TDR雨量計 
 TDRが土の水分量を正確に示すということから,誰もやらないと思われる,土の水分増加量から雨量を測ることにした。1994年12月から1995年11月の1年間に降った降雨強度10 mm h-1未満,総降雨量10 mm以上の18回の降雨を対象に,転倒枡式雨量計雨量とTDR水分増加量から計算される雨量とを比較した。雨量計はTDRの近くに設置した。TDRの金属棒の長さは100 cmである。畑表面には図4のように数cmの凹凸があるので,凸部の2に挿入したTDRを用いた。測定結果を図6に示す。図中の破線は45度の直線である。TDRを雨量計として使う人はいないと思うが,数mmの誤差で雨量を捕捉していることが多い。1,000 mmの金属棒に対して5 mmの測定誤差は0.5%である。キャリブレーションを適切に行うことで精度を向上させることができることが分かる。

画像の説明

どのような使い方があるか
 TDRは単に体積含水率の測定ばかりでなく,金属棒の長さの平均体積含水率を測ることができるということから,次のような使い道が考えられる

  作土の水分をモニターする
作土の厚さと同じ長さの金属棒を使う,または,金属棒が長い場合は斜めに挿入する。

  圃場容水量を測る
根群域に相当する長さの金属棒を用意し,大量の降雨が生じたときに根群域の水分量をモニターする。圃場容水量にはいくつかの考え方があるので,それを参考に測定日時を決める。なお,根群域をどう定義するかも難しい問題であるが,黒ボク土畑では深さ80 cmを根群域と見なしても良いと考えている。

  灌漑水量を求めたい
はじめに大雨または多量の灌水後に圃場容水量を求める。次に,作土(制限土層)の土壌水分が-0.1 MPaになったときの根群域の水分量を求める。この値と圃場容水量との差が灌漑水量となる。作土の-0.1 MPaの水分量は,畑で作土の不攪乱土を採取し,毛管飽和後に加圧板法で求めると良い。畑で-0.1 MPaのマトリックポテンシャルを求める適当な方法はない。

畑の土層水分モニタリングで気を付けなければならないこと
 たとえ雨が均等に畑に降ったとしても,土中にしみ込む水の量は同じとは限らない。これは,裸地状態の畑で1年間,地表から深さ1 mまでの土の保水量の変化をモニターした時に気が付いたことである。TDRの金属棒は図4のように畑の6 mの測線に沿って埋設し,レベルで地盤高を測定した。その結果,金属棒を埋設した最も高い凸部と最も低い凹部の差は6 cmあり,手除草により裸地状態で放置したため年間を通して地盤高に変化は無かった。この程度の高低差は畑では普通に見られる。最大降雨強度16 mm/hで総降雨量が30 mmの雨があったとき,凸部(図の2)の保水量の増加は31 mmと雨量計雨量と同じであったが,凹部(図の4)のそれは45 mmと雨量の1.5倍もあった。畑における微小な表面の凹凸により局所的な表面流去が生じた結果である。

 裸地状態では雨滴によるクラストが必ず出来る。したがって,インテークレート試験で得られる浸透能よりも小さな値で表面流去が生じることに注意する必要がある。トウモロコシとハクサイを植え付けている畑においてTDRで水収支を測定したときは,測定機器を埋設している場所は周囲の平均標高と同一の水平面にし,クラストが浸透を抑制しないように頻繁に土壌面を浅く攪乱した。畑表面の標高を同じにすること,表面流去を生じさせない工夫をすることは,指摘を受ければ当然のことであるが,圃場試験では見過ごされることも多いだろう。畑で採取した土を用いて硝酸態窒素量を測定すると,非常にばらつくことがある。この原因は場所により雨の浸透量が違うことが一因である。一方,場所によって降雨浸透量の積算値が異なっても,年平均の保水量は地表面の凹凸の影響を受けないということは,1年間の測定で初めて分かったことである。同様に,黒ボク土畑深さ1 mの体積含水率の変動は5 %程度であることも,土壌水分を3年間モニタリングして知った事実である。

参考文献
粕渕辰昭 土壌肥料研究における新しい分析手法2,熱伝導式土壌水分計,土肥誌 63:359-363 (1992)
Kasubuchi, T. and Hasegawa, S. Measurement of spatial average of field soil water content by the long heat probe method. Soil Sci. Plant Nutr., 40:565-571 (1994)
Hasegawa, S. Evaluation of rainfall infiltration characteristics in a volcanic ash soil by time domain reflectmetory method. Hydrol. Earth Syst. Sci., 1:303-321 (1997)

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