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ブログ/2017-10-19

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私も言いたい “研究の潮流” について

 
 今までの科学は還元主義で発展してきた。農学も例外ではない。育種,土壌,栽培,灌漑排水,農業機械は農業の同じ現場に要素として独立に入り込んでいる。明治以降の一貫した農作物の増収にこの還元主義が寄与したことはいうまでもない。

 先月のブログでKは次のように書いている。江戸時代に行われていた「多数回除草による無施肥,無農薬の稲作栽培」を実践し,5年で現在の慣行栽培並みの収量を得るに至った。しかし,どうして高収が得られるかは明確にはできなかった。そして,Kは今までの分析的に高収の要因を明らかにすることに限界を感じ,「総合研究の重要さと必要性を痛感する」と綴っている。

 要素還元型の手法が地球環境,生態系を対象とした研究には必ずしも当てはまらないという事実は,「因果関係を重視する」,「再現性は不可欠である」という今までの科学の本質を変化させてきている。そして新しく出てきたのは,「未来予測に基づく科学」と「現実に合致させるためのパラメータの選択」である。前者は2016年10月のMのブログのタイトルである。Mの主張は,『明確な事実に基づく理論構築という古典的手法から脱却して,先を争って必要とされている技術を生み出す「技術革新」を軸とした未来予測に基づく新たな科学の展開が始まったことに,期待と不安を併せ持っています。』とまとめることができる。これは,地球温暖化に対して温暖化をいかに防止するかという発想ではなく,暗く描くことにより,マスコミ受けを狙い,国民の関心を引き,研究資金を獲得する研究者の姿勢に共通するものがあると私は思う。

 後者のパラメータの選択については,科学の社会貢献や予測を重視する文科省の意向が強く働いている。最近の農学研究においても,かつてのような現象を引き起こす要素をトコトン明らかにするという姿勢は後退し,ある現象は複数の要素により直列的に構成されているとして,現象に関与する要素を,厳密に定義しないで一般的な概念でモデル化し,各モデルを統合して全体の現象を明らかにしようとする。いわゆるプロセスモデルの構築を目指す姿勢が強く見られるようである。

 このような研究を積極的に行っている科学者は,土壌が関与する現象をおしなべて複雑系と見なし,過去のレビューをしっかり行うよりも,自分の考えに都合の良いモデルを採用する。なおかつ,1つの組織あるいは学派としてプロセスモデルを作成し,世界標準のモデル化を狙っている。プロセスモデルには複数の分野の成果が取り上げられているので,とても1つの分野を対象としている個人は太刀打ちできない。その結果,個々の要因を明確にすることよりもパラメータの選択で現象を表現する方向に向いてくる。

 Kの主張する「総合研究の重要さ」とはなんだろうか?稲作という総合化した技術を要素に分解し,各プロセスを統合化したプロセスモデルを作ることを意図しているのではなさそうである。それは,トコトン要素を分析していくことに加えて,多くの要素を同時に測定し考察することで,複雑な条件下での要素の役割を明らかにして研究の総合化を狙っているのではないかと思う。プロセスモデルで稲作を説明するのではなく,因果関係のはっきりとした再現性のあるモデルで稲作を説明するということだと推察する。そのためには異分野の成果を取り入れるのではなく,異分野の研究者に自分の研究対象を理解してもらう,一緒に研究する必要がある。これは,縦割りがはっきりしている我が国の研究分野では容易に実現しそうにはない話ではあるが。

追:農業農村工学会の土壌物理部会の研究集会が10月13日に土壌物理学会のシンポジウムが10月14日に札幌で開催された。土壌物理部会は「土壌化学を理解するための地球化学反応モデリングの基礎」,土壌物理学会は「土壌および帯水層中における吸着・微生物群集とモデリング」がテーマだった。前者ではGeochemist's Workbench (GWB)というソフトの宣伝も一部にありましたが,両者とも私たち馴染みの深い「土中のある物質の移動モデル」とは異なり,着目する元素がその濃度,pH,酸化還元電位,他のイオン種,温度条件下で土壌中にどのような化合物,形態(溶解・吸着・沈殿)として存在するかについて講演でした。私たちは着目する元素の移動を対象とするとき,外的条件は一定という仮定をするが,自然界の土壌ではこの仮定をすることは誤りであるという忠告でもあったと思う。前述の「未来予測に基づく科学」と「現実に合致させるためのパラメータの選択」とは別のもう一つの科学が土壌の研究分野にあることが嬉しかった。(H)

・・・・ 過去のブログ記事・・・・
2017-09-27 農業栄えて農学滅ぶ?!
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2017-08-04 スイスと日本の森林管理について
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2017-06-10 歴史は逆戻りする
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2017-05-14 研究をめざす若い方たちに贈る言葉
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2017-03-25 農業の効率化がもたらすこと
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2017-01-23 雑誌あれこれ
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2016-11-14 2016年土壌物理学会に参加して
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2016-11-01 現在の農法は水田のもつ機能を十分利用できていないのでは?
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2016-10-06 未来予測に基づく科学は本物か?
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2016-09-29 How water drops impact soil surfaces のご紹介
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2016-09-15 田舎館村高樋遺跡
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2016-03-25 「新しい発見をすること」が科学者の目的ではない?
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2016-03-16 シンポジウム 「 食料は足りるのか 」の中の『人間と土壌 』
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2016-03-15 君が測っているのは地下水位?
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2016-03-09 ブログを始めます
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