ガス拡散係数
ガス拡散係数
ガス拡散係数の求め方には、ガス拡散係数法とチャンバー法がある。
ガス拡散係数
a. 装置の概要
ガス拡散係数の測定法原理は酸素を窒素ガスで置換した部屋(拡散室)に土の試料をすみやかに暴露させ,大気から土を通して拡散してきた酸素の量を測ることである。暴露させる方法には,試料をスライドさせる(遅澤・久保田,1987),試料を覆った膜を瞬時に引く(Kuncoro and Koga, 2012),それともここで紹介するように隔壁を引き抜くかといった違いがある。
本装置では,試料の断面積を100 cm2に高さは5.0 cmと2.5 cmの鉄製の円筒を用い,簡単に測定できることに主眼を置いた。図10のように試料と真鍮固定枠の間にはオーリングがあり,気密を保つようになっている。拡散室の直径は試料の直径と同じで,高さは10 cmである。上部にはガルバニ電池式酸素センサー(Yuasa製,KE-25)が取り外し可能なようにオーリングで固定してある。隔壁は厚さ0.4 mmの塩ビ板であり,多孔板は真鍮製固定枠と一体となっており,厚さは1.5 mmで6 mm四方に2 mmの穴があけてある。穴の総体積は2.2 cm3である。
b. 測定法
図10のように,試料を固定枠にはめ込んだ後,隔壁を挿入し,拡散室の2つのバルブを開け,一方から窒素ガスを入れ,他方は大気に開放する。窒素ガスの流入速度は拡散室の圧力が大気圧よりも若干高い程度とし,ガルバニ電池式酸素センサーで酸素濃度をモニターし,ゼロになるまで窒素ガスを流し続ける。拡散室が窒素ガスで飽和(酸素濃度がゼロ)したら2つのバルブを閉じる。
余り時間をおかずに拡散試験を開始する。まず,隔壁を抜くと同時に隔壁が挿入されていた部分のスリットをビニールテープで塞ぐ。その後は酸素濃度と時間の関係をモニターし記録させるだけである。
図.拡散室の空気を窒素ガスで置換しているところ
図.左は隔壁を抜き終わりテープでシールしている。
右は隔壁を引き抜いているところ
試験が終了したら試料円筒を外すが,高さが2.5 cmの円筒では掴み代が少なくオーリングから外しにくい。このようなときは,あらかじめ太い針金で作っておいた輪の中に円筒を入れ,円筒とのすき間にねじ回しを入れてテコの原理で抜くことができる。
ガルバニ電池は大気中では劣化するので,長時間使わないときには拡散室から外して窒素ガスで満たしたポリ袋に入れて密封しておく。
測定法に関するその他の事項は「土壌環境分析法」を参照のこと。拡散係数の計算式は,拡散係数を求めている研究者にプログラムをもらうとよい。
参考
遅澤省子・久保田徹,土壌のガス拡散係数の測定法,日本土壌肥料学会誌58:528-535 (1987)
Kuncoro, P.H. and Koga, K. A simple and low cost method for measuring gas diffusivity and air permeability over a single soil cylinder. 土壌の物理性 120:55-60 (2012)
チャンバー法
a. 装置の概要
土壌から発生するガス(二酸化炭素)の場合,土面をチャンバーで覆うとチャンバー内のガス濃度が変化していく。そして,土面を覆った初期はチャンバーの中に入ってくるガスは大気中への放出速度と同じと見なせることを利用してガス濃度変化から大気への放出速度を計算する。土が吸収するガス(畑に吸収されるメタン)の場合も同様である。例えば,二酸化炭素の濃度は深さ方向に高くなるように,土中のガス濃度は一定ではないのでチャンバー内のガス濃度は単純に飽和曲線にはならない。
b. 測定法
図11に底面積が30 cm x 30 cm,高さが30 cmのチャンバー法のポンチ絵を示す。測定に際して注意する点としては,チャンバーを置く枠は4cm土中に入れて水平にする。枠にある水溜の溝は内側を外側よりも高くしてある。こうすることで,チャンバーを設置したときに溢れた水は確実にチャンバーの外側に流れ,観測する地表面の土壌水分を乱すことが防止できる。また,チャンバーを設置した時に水溜の水深分だけ内側の圧力は大気圧よりも大きくならないように,上面または側面にNo.1のゴム栓が入る程度の穴をあけておき,チャンバー設置後にゴム栓を閉じるようにする。また,チャンバー内からガスを抜くことに起因する減圧を補償するためにチャンバー内にテドラーバックをぶら下げることも行われているが,シリンジでガスを採取するような減圧が急激ではないときにはテドラーバックは全く機能しない。テドラーバックを付けるかどうかは目的による。
チャンバーの中ではガス濃度は均一化する方向に向かうとはいえ,土壌から着目するガスが放出されるため濃度は場所により異なることになる。したがって,ガス採取位置が問題となり論文も出されている。この問題を避けるために,チャンバー内のガスを攪拌するためのファンを付けたチャンバーもある。ファンからの風が強い場合,移流を引き起こさないかどうかが気になるが,その検討は行っていない。ガスの放出に限らず野外で限られた面積を対象に測定される移動現象は反復間のバラツキが大きい。したがって,個々の測定に過敏になるよりも,処理区間差のような試験に向いていると言えよう。