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ブログ/2017-03-25

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農業の効率化がもたらすこと

         -北海道の過疎地で暮らして感じたこと- 

 我が国の農業は20世紀後半から規模拡大と機械化を目指してきた.しかし,活気に溢れる農業や農村は一向に実現せず,政府の方針どおりに農業に取り組んだ農家の多くは魅力のある農業を実践できず,借金を抱え,後継者不在で離農し,農業は斜陽産業のままである.

 農地区画の拡大,農業の機械化の目的が生産コストの削減に傾きすぎると,生き残り競争となって,ますます農家戸数が減少することになる.挙げ句の果ては地方消滅が見えてくる.本来,政府や農水省は国民に対して,地方における国民の定住と食料生産をどのような姿にすべきかを問い,その結果の一環として農業政策を実施するのが筋だと考えるが,現状ではこの種の議論があまりにもなさ過ぎる.

 地産地消,医食同源や環境保全型農業の推進など,都市住民に向けて日本農業の大切さが幾度となく強調されてきたにもかかわらず,国産の農産物生産額は1980年代後半から減少に転じ,輸入が増え,農家戸数の減少に歯止めがかからない.そこで,北海道の過疎地に暮らしてみて感じたことを書いてみたい.

 水田の大区画化のために,小規模農家には家庭菜園的な農地を残して農業から撤退させるという農水省の政策は,必然的に地域の人口減少につながる.また,中核農家に農地を集中させるためには,水田区画の拡大等の農地の再整備が必要となる.農家には補助金が支給されるとしても長期の負担が生じ,その間に国の農業政策は変化する.過去を振り返ればこの負債を返せずに離農した農家も多い.

 大きな投資を行ってロボットトラクターやAI技術を駆使して農業の生産性を上げることは可能であろう.でも,面積あたりの生産量は効率化を図ってもそれほど増えないだろうから,規模拡大を行う農家がある一方で,失業する農家,離農する人々が増える.

 北海道以外の地方では農外収入を得られることで兼業農家が増え町村の急激な人口減にはならなかった時代が続いていた.しかし,農業以外の産業のない北海道では離農しかなく,直ちに人口減に結びつく.離農者が増えれば非農家数も減少していく.農業生産には人手を必要とする作業は必ずあるため,町村の人口減はパート労働力の確保を困難にする.農業生産高が多少増えたとしても,町村にとっては人口減少の損失の方が大きいだろう.このように考えていくと,農業土木や農業機械の技術者が目指していることは地域から人々を撤退させ,町村の衰退を加速させていると見なされても仕方がない.

 農産物は本当に安くなるのだろうか.たとえやすくなったとしても,地域から様々な商店が消えては買い物に行くにも交通費がかかる.役場の出張所が消えて不便を感じ,やがて小学校が廃校となり,産科医も不在となって,人の再生産はおこなわれず,若い人が消えていく.地方の町村は基本的に農業が産業なのである.もっと大胆に農家に対する直接補償等の政策に踏み切るべきだ.町村の行政は活性化を目指して自然を活かした観光旅行業の誘致に血眼になり,農業の第6次産業化に必死であるが,高齢化しつつある農村部で新たな産業を作り出すことができるのは例外的である.地方の農村部で生きている人たちも同じ国民であり,競争的なプログラムに勝たなければ交付金が貰えず,行政サービスが低下するというのは間違った施策である.
北海道を日本の穀倉地帯にするという夢にとらわれすぎて,農業以外の産業,多様な人々が暮らす社会を作り忘れたことが,町村衰退の最大の原因である.したがって,農業工学だけでは解決できる問題ではもちろんないけれど,土地生産性,労働生産性のさらなる向上は農村を潰す方向に進んでいるとしか思えない.個々の研究者,技術者が狭い自分の興味ばかりしか目を向けず,役人も近視眼的な農業政策を実施していくならば,地方は本当に滅びてしまうだろう.

 都会の人が大自然に憧れて北海道に来て,さわやかな緑を満喫した後には,次第に寂れた街並みが目につく。かつては特産だと聞いた食べ物は消滅し,人とのふれあいもなく,ただ道路を車で走るだけの旅行だったという印象になってしまいそうだ.時間はかかるだろうが,若者が日本のどこに住んでも生き甲斐を感じる社会の確立に向けて私たち皆が考え,実行していかなければならない問題だ.(H)

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