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フローチャートを使って英語で論文を書く

フローチャートを使って英語で論文を書く

 

1.はじめに
論文を書くことは、研究過程を締めくくる大事な作業である。しかし、なかなか上達しない。特に英文による論文作成は苦労が多い。英語の表現に慣れていないうえに、そもそも論理的な論文をきちんと書けないからである。論理と表現のどちらも大事であることは言うまでもないが、「鶏が先か、卵が先か?」の話になれば、まず大事なのは、論文の構成、論の進め方である。論理の展開が明確であれば、読み手はたとえ表現が稚拙であっても理解することができる。語学的なハンデがあることは、致し方ないことである。表現が稚拙でも、きちんとした雑誌(国際誌)ならば比較的寛容である。しかし、論理展開はそういうわけにはいかない。言葉を越えて、科学の世界だからである。

英語の論文を書き始めてから4報目の論文が、査読を受け編集者の厳しいコメントがついて帰ってきた時だった。どちらかと言えばリジェクトに近い内容だった。どうしたら、きちんとコメントに応えることができるか悩んだ。そのため、ノートを1冊用意した。そして相手のコメントを1つずつ訳し、その意図を正確に読みとることから始めた。これらに答えるための内容を試に日本語でフローチャートにしてみた。フローチャートは起点(課題の提起)と終点(結論)を一つの論理で結ぶ作業である。そのフローチャートに基づいて英文を書いた。そして、結局、最終的に論文すべての内容をフローチャートに基づいて書き直した。これには多くの時間が必要だった。しかし、同時に全体を1つひとつ組立てていく作業でもあり、楽な面もあった。

こうしてでき上がった原稿を航空便で送った。それから程なくあっけないほど簡単に、OKの返事が届いた。嬉しかったと同時に、フローチャート方式が論文作法として有効なことを確信した。それ以後は日本語であれ英語であれ、論文はフローチャートに基づいて書くことにした。

2.起承転結
いくつかの発見があった。文の流れとして「起承転結」あるいは「序破急*」が必要なことである.これらは,イントロ、Results & Discussion(R&D)、結論、サマリー(Abstract)などすべての部分で備えなければならないことである。そもそも論文は他人を説得するために「論ずる」ものであり、明確な論理が必要である。「起承転結」、あるいは、「序破急」(序論・本論・結論)、は読者に理解し納得してもらうための世界共通の方法だと思う。この「起承転結」あるいは「序破急」は、フローチャートにすることで明確にできる。それぞれの構成要素がきちんと成り立っているかどうかを考え,確認することが一目でできるからである。

とくに「起承転結」で重要なのは「転」の部分である(「序破急」では「破」).4コマ漫画でいえば3コマ目になる.「起→承」と続いてきた流れが,「転」で「ところが」という,これまで流れを否定する展開になり,それに続いて,「結」,すなわち,「結論」に至る.私は,この説明のためにサザエさんの4コマ漫画を示して,いかに「転」が大切かを説明することにしていた.サザエさんの面白さ(説得力)はこの3コマ目にある.

*「序破急」とは雅楽や能などで楽曲を構成する際に用いられる言葉。三段構成で,導入部分が「序」,起承転結の「起・承」に対応する.起承転結の「転」に相当する部分が「破」,結論が「急」となる.「序・破・急」を「序論・本論・結論」と言い直すこともできる.これに対し「起承転結」は4段構成である.

この点に関して,カナダの大学でポスドクを経験したM君から以下のコメントを頂いた.ご本人の了承を得て転載させていただく.

「序論=起・承、本論=転という考え方、面白いと思います。カナダの作文授業で三段構成を習いました。
「序」の目的は(1)読者の興味をひくこと(リーダーズアテンション)と(2)自分の考えを述べること。
「本」の目的は、自分がなぜそう考えるのかという理由を3つ説明すること。
「結」の目的は、自分の考えをもう一度述べること(ただし、別の表現で)。ということでした。講師が実際に挙げた例ですが、
序:消防士は命の危険にさらされる職業である。だから給料は高い。しかし、消防士は給料をもらいすぎだと思う。
本:出動回数の少なさ、誤報による出動回数の多さ、殉職者数(低賃金・土木作業員との比較)
結:消防士の給料を下げることを提案したい。

序論=起・承、本論=転になるとぼくも思います。上と同じ内容で、接続詞の変更などで、三段から四段に変えられるからです。ただ、本論は、序論から展開するので、序論=起、本論=承と考えられがちと思います。それに、本論は、転と違って、文章の流れを否定しません。読者が本論=転と納得するかどうか、微妙だと思いました。」

このコメントをもらって考えたことは,「ところが」という「転」の最初の部分が「序論」の最後に入ってくるということである.

3.論文作成の作業手順・・まず「結論」
具体的な論文作成の作業手順としては、まず図表をきちんと整理することから始める。次に、結論を考える。結論はできるだけ短く、できれば1つにする.いくつも結論があるというのは、結論が無いに等しいと私は思っている。このための検討は丁寧に行う。

なお,「結論」は,結論として章を立てて書く場合と,R&Dの最後に書く場合とがある.ケースbyケースで対応する.

4.Results and Discussion (R&D)
次に、R&Dに進む。最初,逆からフローチャートを作成する。すなわち、結論はすでに決めているので、その結論が言えるにはこのデータと論理、その前にはこれ、・・・・という風に、逆をたどる。ちょうど推理小説を書く手順に似ている。たいていはいくつかの節に分けることになるが、それぞれの節のなかでも、必ず起承転結あるいは序破急が成り立つように工夫する。起承転結や序破急が入れ子構成になり、オンパレードになる。なお,フローチャートの1つの処理(フローチャートの図では,四角でくくる箱に相当する)は最終的に1つの文に対応させる.論文すべてをフローチャートにしてしまう.

付け加えれば,一つの節から次の節に移るときは,各節の終わりに,次の節に続けるための接続の行を必ず入れることにする.例えば,前の節の結論に続いて,「そこで,次にxxについて調べることが必要となる」などである.

こうやってR&Dが出来上がったら、まともな(すなわち、起点から終点に向かう)フローチャートに戻す。そして、起点から終点まで、論理がきちんと一本の線として繋がっているかどうか、内容に矛盾や不足の部分は無いかなどを点検する。

5.Materials and Methods (M&M)
R&Dが一応できたら、次に、方法(M&M)に移る。R&Dの流れに沿って、方法のフローを書く.論文全体にかかわる重要な方法(点)は最初にもってくるとか,あるいは付加的な説明は最後に置くなど,全体のフローをここでも考える.

6.イントロ
最後にイントロを書く。論文を書くのに最初にイントロから始めるのは地図なしに登山するのに等しい.論文作成の最後にイントロを書くのが鉄則である.イントロは論文の9割を占めるという意見がある。それだけ重要だと言うわけである。決して長ければいいのでは無い。この課題を選ぶに至った経過、何を新たにターゲットにしたか、どのような方法を用いたのか、どのような結果が期待できるかなどを起承転結(または序破急)の順にフローを書く。フローは最初に考えた(論文の最後に来る)結論にきちんと対応していることは当然である.もちろんここでも最初は逆から書く。

7.引用文献
これらを書くなかで引用文献を別に整理しておく.引用論文は必要かつ十分なものに限り,孫引きはしない.引用論文は多ければいいというものではない.新規性の高い,独創的な論文ほど引用文献が少ないという話を聞いたことがある(「引用文献の数が一桁になるような論文を書くのが目標」,と言った人もいる).引用文献は必ずコピーして手元に置いておく.(Europian Journal of Soil Scienceの編集長であったWebsterは、引用文献は6つで充分と投稿要領に書いていました(Hさんのコメント))

8.英文に直す
こうしてようやく、英文に変えていく作業を始めることになる。英語は一語一語(特に動詞)を検討する。どの単語が最も適切なのか、この表現でいいのか、を考えながらフローチャートに沿って書いていく。日本語で書いたフローが英文に変えようとすると,難しい場合がある。主語が明確でなかったり、表現が曖昧だったりする場合である。そのような場合には、英語の論理?でフローを手直しすることになる。しかし、その場合も、最初に作ったフローに沿って行う。英語に翻訳する順序は,R&D, M&M,そしてイントロのようにするとよい.

英英辞書は必須である。そして、できる限り辞書の最初にでてくる定義が表現したい意味に合った言葉を使う。その場面で使える語は1つしかない、と考えて言葉を選択する。これまで読んだ英語の論文を参考にしたり,英語で論文を書くための解説本も役に立った。

9. Abstract
全体が出来上がったら、もう一度、全体をとおして見直してみる。そして最後にAbstractを書く。サマリーにも起承転結(序破急)は必要である。

10.タイトル
タイトルは最も短いサマリーであり,最初に読者が見る内容である.論文作成の最後の作業である.ここでは,一番言いたかったこと,「何をして,何が得られたか」,あるいは「何をしたのか」を一目で分かるように表現する.

11. その他
このようにして書いた論文は、英語が下手というコメントはあっても、リジェクトの憂き目にあうことはほとんどなくなった。

このやり方で書いた論文を初めから読み直してみると,はじめに(イントロ)から論理が1本の明確な線に沿い,寄り道なしに結論に至っている.逆から書いたのだから当然といえば当然であるが,分かりやすい論文になっているはずである.

この方式を学生諸君とくに院生諸君の論文作成指導で利用した。そうすることで、英語が苦手な人も(指導する当方も実はかなり苦手だが)、一つひとつ積み上げていくことで意外にスムーズに論文が完成し、多くの場合、受理された。付け加えると、決して先を急がないようにすることである。1つひとつのプロセスを納得しながら進めることが大事である。とくに、R&Dは、関連する他の人の論文を再度読み直したり,あるいは新たに読み込むことなどもして、論理の正確さを十分に確認しつつ進めることにした。この論文作成作業は,都合がつかない日を除いてほぼ毎日,継続して行った.ときに数か月をかけた.

なお,最終段階では英文のチェックをしてくれる有料のサイトも利用するとよい.いくつかのサイトがあるので,自分に合ったサイトを利用する.海外では1報100ドル程度のことが多い.そうやって帰ってきた英文を,きちんと見直し,こちらの意図と違うふうに捉えられていないか(時々ある)などを確認し,納得できる論文として完成させ,投稿した.

波及効果もあった。文章の構成を、部品から1つひとつ作り上げる作業を通じて、他人の論文を読み解く力がでてきたことである。「論文を深く読めるようになった」という声を学生くんから聞くと、この方法が有効なことが理解できる。まさに、「書くことは学ぶこと」(M氏の言葉)、である(K).

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