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浸透流の可視化

浸透流の可視化

浸透流の可視化

1.可視化の目的
 土壌中の水分移動を可視化することは、理論的な研究に結び付けるうえでも、また灌漑や排水のような技術的問題を検討するうえでも、貴重なヒントを与えてくれる。しかし、これまでのところ、流れの可視化と言えば河川や開水路の流れを対象とする手法だけが注目されてきており、土壌中の水分移動の可視化に関する包括的、系統的な解説は見当たらない。
 土壌中の水分移動は、ゆっくりした流れであり、河川や水路の中の水の動き方とは著しく異なる。土壌水分は、土壌間隙の中を移動するので、流路が狭く、摩擦が大きいことは想像できるが、実際にどのような動き方をしているかを観察することは、特別な手法を持たない限り実行できない。
  MHK工房では、こうした状況を踏まえ、不完全な形でも良いので土壌中の水分移動の可視化議論を公開し、更に優れた可視化手法の開発にも繋げたい。

2.対象とする浸透流
 浸透流の中で最も速い流れは、マクロポア中の飽和流であろう。マクロポアとは土の中に形成された乾燥亀裂、根成孔隙(植物根の跡に残された孔隙)、人為的な暗渠周辺の亀裂、土壌動物の活動跡、収縮亀裂などの総称である(図1参照)。

      図1
                 図1 マクロポア

 これに続いて早い流れは、礫や砂中など比較的大きな間隙を持つ地盤の中での飽和水分移動であり、火山灰土壌、シルト質土壌、粘性土壌などの飽和浸透流は非常に遅い流れである。
 厄介なのは、これら土壌中の不飽和浸透流である。たとえ大きな間隙を持つマクロポアや砂などの中においても、ひとたび土壌が不飽和状態に移行すれば、その水分移動速度は劇的に低下してしまい、その現象を観察することはかなり難しくなる。
 このMHK工房では、試行錯誤の情報を提供し、今後浸透流の可視化を試みたいと思っている研究者への参考資料としたい。

3.亀裂が発達した重粘土圃場の浸透流可視化
 水田では、落水時の土壌中に多くの亀裂が発生する。井上久義、長谷川周一、宮﨑毅の3名は、もと水田でその後転換畑として使用された実験圃場を用い、亀裂が発達した圃場における水の動きを可視化することにした。その研究成果は、農業土木学会論文集134号「亀裂が発達した圃場における水の横浸透」(p51~59, 1988年)に詳しく記述しているので、ここではその可視化手法について詳しく述べる。
 まず、実験用の圃場に図2のような溝を掘削する。
  図2
       図2 圃場で掘削した溝と試験用土壌ブロック

図2の上の図は横から見た図(断面図)、下の2つは上から見た図(平面図)である。試験用圃場なので、深さ70cmにビニールシートが張ってある。したがって、深さ70cmの溝を掘ることによって、ビニールシートから上の溝に漏れのないように水を貯めることができる。上流側(図では左側)の水位を高く、下流側(図では右側)の水位を低く維持すると、幅144cm、深さ70cmの土壌ブロック内を上流側から下流側に向かって水が移動できる。土壌ブロックは亀裂が発達しており、どこをどのように水が流れるのか、よく分からなかった。そこで、上流側の溝に5~6倍に希釈した水性白色ペイントの溶液を所定の水位に貯め、その白色ペイント溶液を土中にしみ込ませて移動を可視化したのである。
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 図3 水性ペイントにより染色された断面図。溝Aから溝Bへ向かう浸透流に直交する垂直断面を
    スケッチしたもの。

 水性白色ペイント流下後、流れと垂直な断面を掘り出し、その断面で白色に染色された部分を観察、記録、描写した。そういった垂直断面を上流側から15cm、115cm、200cmの距離で作成し、記録したものが図3である。図3の実線部は白色に染色された亀裂部分、点で表した面は白色に染色された土壌面、点線は亀裂であるが染色されていない部分である。この現象の解析は論文本体に譲るが、圃場の亀裂部分を水がどのように通過したかを可視化することには成功した。同じような目的を持つ圃場試験では、5~6倍に希釈した水性白色ペイントの利用を推奨する。

4.豊浦砂における水分移動の可視化
 通常、乾燥した土壌は明褐色に近いが、水で濡れると黒褐色に変色する。したがって、たとえば透明のアクリル板を土壌側面にあてがい、その側面から湿潤域と乾燥域の境界を観察すれば、明瞭に見分けることはできる。しかし、湿潤域と乾燥域の境界そのものは、流れを可視化しているとは言えない。そこで、豊浦砂を充てんしたパネル型土層側面に透明のアクリル板を張り付け、その面に規則的な穴を穿ち、その穴から過マンガン酸カリウム粉末を少量ずつ挿入してゴム栓をし、その後上からの浸潤実験を行った。

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    (a) 湿潤域と乾燥域の境界を見る 

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    (b) 湿った砂中の流れ

   図4 過マンガン酸カリウムによる流れの可視化(立面図)

 図4(a)は、乾燥した豊浦砂に上から水が浸潤してきたときの湿潤域と乾燥域の境界を可視化(立面図)している。中央の白色横帯は、豊浦砂よりも粒径の細かい石英砂の層である。図4(b)は、実験槽全体が濡れた後の水分移動を過マンガン酸カリウムによって可視化(立面図)している。水の動き方が明瞭に観察できる。なお、過マンガン酸カリウムを用いた理由は、土壌の色と見分けやすく、また水中での拡散係数が小さいことなどである。

5.浸潤現象の可視化
 ガラスビーズや石英砂は、粒状体のモデル物質として実験室で使用されることが多い。こうした透明性のある媒体中での水移動を可視化するにも過マンガン酸カリウムは有効である。図5左は水平に敷き詰めた球形ガラスビーズへの浸潤現象、図5右は石英砂への浸潤現象をそれぞれ可視化している。上から見た平面図であるが、左側から浸潤してきた水が粒子1個1個を包みながら前進する様子が見られる。
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        (a)ガラスビーズ 
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        (b)石英砂

    図5 モデル物質粒状体への浸潤の可視化(平面図)

 図6は、やはり水平な薄い容器に豊浦砂を充てんし、左から右へ浸潤現象を起こさせたときの平面図である。どちらも過マンガン酸カリウムにより流れを可視化している。図6(a)は風乾砂の場合であり、水による浸潤前線と過マンガン酸カリウム色素の先端位置が互いに一致している。図6(b)は初期含水比4%の場合であり、水の浸潤前線が過マンガン酸カリウム色素の先端位置より先行している。両者の違いはなぜ起きたかを考えることは良い頭の体操になる。ヒントは押し出し流(ピストン流)である。

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        (a)風乾砂の場合            

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        (b)初期含水比4%の場合

    図6 豊浦砂への浸潤の可視化(平面図) 

6.畑地圃場の水分移動の可視化

 図7は、群馬県嬬恋村において、傾斜キャベツ畑の土壌浸食を調べる目的で行った土壌調査の場面である。図7(a)は土壌断面であり、クロボク表土の厚さが約40cmで、その下に褐色の軽石状レキ層が見えている。この圃場では、耕盤層が浸透流を阻害していると予想されたので、地表面から水を浸透させて観察することにした。土壌の色が黒色なので、流

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            (a)

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              (b)

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            (c)

   図7 嬬恋村クロボク土キャベツ畑の浸透流可視化

れが可視化できるよう、フルオレセインを用いた。図7(b)は試験圃場の表面にフルオレセインを撒きだしたところである。水に溶けて緑色に見えている。図7(c)はしばらく時間をおいて土を掘り上げたところである。どこまでフルオレセインで染色されているかを観察し、耕盤層が浸透流を阻害していることを確認した。
 フルオレセインナトリウムはウラニンとも呼ばれる。また、フルオレセインの蛍光色はバスクリンなどの浴用商品としても利用されている。

7.飽和・不飽和浸透流の可視化

    屈折写真       
                      図8
    
 浸透流の可視化としてメチルオレンジを用いたところ、図8のように鮮明な色つき流線が現れた。豊浦砂を充てんした平板槽において中央部に粒子径1mmガラス粒子の粗い層を帯状に挟み、左から右へ飽和定常浸透流を与えている。帯が流れに直角に位置するときは流れが屈折せず、帯が流れに対して斜めに位置すると大きな屈折現象が現れた。流れを可視化しない限り、両者の違いを観察することは不可能である。
 次に、図8と同じ平板槽の中央部に、粒子径が0.037~0.063mmという細かいガラス粒子の層を帯状に挟み、飽和定常浸透流と不飽和定常浸透流を与え、メチルオレンジで流れを可視化した。図9はその結果である。ガラス粒子は豊浦砂より細かいので、飽和透水係数は豊浦砂より小さい。図9左の飽和流では入射角に対して屈折角が小さくなった。しかし、同じ槽内で不飽和流を与えると、入射角より屈折角の方が明らかに大きいことがわかる。

   画像の説明

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   図9 屈折流の可視化(平面図)。上は飽和定常浸透流、下は不飽和定常浸透流。

8.フィンガー流の可視化
 フィンガー流は、砂やそれより粒径の粗い充填層の中で水が部分的あるいは選択的に流れる特殊な流れであり、他の浸透流とは異なる振る舞いなので、実験的および理論的な研究が重ねられてきた。流れの呼称も、部分流、舌状流、選択流、フィンガー流など、研究者によって使い分けられている。
 フィンガー流を可視化するには、水そのものを観察すればよいが、必ずしも明瞭に見分けられるとは限らないので、過マンガン酸カリウムによる可視化を試みた。図10は高さ1m、幅2m、奥行内径2cmのパネル状容器に、上層は豊浦砂、下層は粒径の粗い(約1mm)ガラスビーズを充てんしたものである。図10左は上下層の境界が水平である場合、図10右は上下層の境界が傾斜している場合である。流れを可視化することにより、上層中での均一な浸透流と下層におけるフィンガー流の状況が良く観察できた。

       画像の説明

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         図10 フィンガー流の可視化

 上側の砂層では、充てん後に前面のアクリルパネルに横並び等間隔に設置しておいた小孔から過マンガン酸カリウム粉末を少量ずつ砂中に挿入し、ゴム栓で蓋をした。上層と下層の境界には、充てん時にあらかじめ過マンガン酸カリウム粉末を薄く撒きだし、サンドイッチ状態で充てんを行った。その結果、上層では小孔に置かれた染料を起点とする浸透流の可視化、下層では部分的にのみ流れるフィンガー流の可視化が、それぞれ行われた。

9.浸透流の可視化に使用した染料の比較と安全性
 下記の表は、農土論集152、「成層土における定常浸透流の屈折現象について」(p.75~82,1991, 宮崎毅)からの引用である。参考にしていただければ幸いである。なお、過マンガン酸カリウムは酸化剤として知られる物質であり、安全データシート(SDS)の危険有害性情報によると、飲み込むと有毒(経口)である。また、皮膚や眼球などへの接触を避けるよう指示されている。メチルオレンジは酸塩基指示薬であり、安全データシート(SDS)の危険有害性情報によると、飲み込むと有毒(経口)である。フルオレセインは大量に飲み込むと危険とされているが、風呂へ溶かして蛍光色を楽しむような商品(例えばバスクリン)にも使われており、特に危険とは言えない。

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