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ブログ/2020-07-19

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アイディアが生まれるとき・行き詰まったとき

       
 研究者は論文を書く義務がある.論文は再試出来ること(再現性)が前提であり,次いで新規性が要求される.ですから,論文を書かない人には本ブログは全然おもしろみがない.

アイディアが生まれるとき

実験が主体の我々は誰しも,積み上げたデータを前に,それが当初の予想通りであっても異なっていても,結果を合理的に説明する理論やモデルについての良いアイディアがないかと悩む.どうしたらアイディアが生まれるかは昔から研究者が考えてきた問題である.2~3紹介しよう.

田中一の「自然の哲学」上(新日本図書,1973)に第一話「アイディアの誕生」がある.そこに書かれていたことは,「アイディアが生まれるのは,頭を使って一心に考えながら仕事に熱中しているとき」であり,また「仕事についてよく知っており,また仕事のうえで新しく工夫をこらすべき点がはっきりしている場合----」であった.すなわち,「一般知識の元で課題意識が持続したとき,課題意識はこれを具体的に展開していく契機を獲得してアイディアとなる」.少し難しい文章だけれど,自分の研究テーマが土壌物理だとすると,一般的知識とは物理や化学といった基礎科学に加え,土壌と作物生育または土と環境問題に関する幅広い知識に相当しよう.さらに,自分の課題に関しては関係する論文を読む,研究者同士の議論を行うなど,かなり考察を加えていて問題の突破口がしぼられてきたときにアイディアが出るということであろう.

 井尻正二は「化石のつぶやき」(共立出版,1972)のなかで,科学者の研究には2つのタイプがあると書いている.その1つは,まず観察・記録・観測・測定・実験データの集積,といった科学的な操作のちに,仮説なり法則を導き出すタイプである.今1つは,まず直感的結論が先に来て,その実証のために,観察・記録----実験という操作をする,というタイプである.では,後者の直感はどうして生まれるか,といえば,それは当面の問題について,出来るだけ多くの文献や資料を集め,かつ勉強すること,その問題を四六時中考えていることの結果だと思うと書いている.

 私自身何回か壁にぶつかった(私の壁は低かったと人は言うかもしれません)経験がある.約40年まえの博士課程の学生時代,透水係数と体積含水率の関係をモデル化できないかと考えていた。実験データからはlog kが体積含水率の1次関数で表せる領域があり,どうしてそうなるのかを考えあぐんでいた。世の中の自然現象で片対数表示式が使われているのはどのような現象かを調べてみた。そんな中でボルツマンの式S = α log Wという式を見つけた。Sはエントロピー,Wはミクロな状態の数,は定数である。そこで,気体分子運動論も勉強してみた。これは役に立たなかったが,四六時中考えていたと思う.
 2020-05-25のブログでKは「妥協から創造は生まれない」ということを,井尻正二の科学論から学んだと結んでいました.

私たちには,土の中で起きている現象や状態を知ろうと測定機器や道具を作ることが必要とされる場合もある.でも,どうやって作るか,良いアイディアはないかと悩むこともある.この点についても先人の教えが参考になろう.

 寺田寅彦は良品廉価生産の研究をやるときに次のようなことを言ったそうだ.「1日でも2日でも,考えの出るまで黙って考え込む。どうしてもいけないときは数日おいてまたやる。機械から離れても考える,寝ても考える。旅行をすれば汽車の中で考える。そうすれば必ず先人未発の機械装置が浮いてくる。」と述べている(宮田親平著「科学者たちの自由な楽園」,文藝春秋(1983)).私自身,測定機器や道具を作っていると,壁にぶつかってどう対処すべきか迷うことが往々にしてあった.そのようなときは,今日はここまでと決め,実験室から離れて1日かけて考えることにすることが多かった。丸1日そのことを考えているわけではないが,少し距離を置いて,やりたいことを冷静に考えると,何とかアイディアは生まれるものである。これは,図面の上では作れるが,自分では工作できないときの別の方法で具体化するときにも当てはまった.寺田寅彦のこの文章を見たときにはちょっとうれしかった.私の場合は,どのように工夫したかをノートに取らなかったため,後日どうやって作ったのかと人にたずねられた時や,学生を指導するとき,作る手順等を忘れて再び頭を抱えたことが何度もあった.

 このように,実験結果を説明するためのアイディアも上手に実験をするためのアイディアも,自分の知識を動員し,足りないならばさらに知識を増やし,工夫を重ねて初めて生まれるようです.ですから若い皆さん,良い考えが浮かばないと落胆する必要はありません.悩み抜きましょう.そして,壁に突き当たったということがないという君には,それは頭を使ったことがないのと同じですねと.
 でもね,そうは言っても

アイディアが生まれずに行き詰まったとき

 既往の研究のレビューをし,研究計画を立て実験を始め,その結果に対しても相当時間をかけて考えてきたけれど,一向に光が射さないこともある.時間ばかり過ぎ,そのうちに自分には能力がないのではないかと非常に内向きになってしまう.今まで費やした時間と実験に消費した予算を考えれば,なんとしてでも論文を書かなければならないと,自分をますます追い詰めてしまう.そんなとき,他人に発想の転換が必要ではなどと言われようものならますます落ち込んでしまう.

さらに,何とか打開しようと頭を悩ませている姿を見て,他人は,あいつは頭が硬い,一つのことに執着しすぎて見る目が狭いなどと勝手なことを言う.一方,研究に行き詰まったとき,早々に,それまでの考え方を諦めて他の方法を探ろうとすれば,あいつには信念がない,場当たり的だ,そして極めつけは,あいつは何を考えているのか分からないなどと陰口をたたかれる.そんな周りの声が聞こえてしまうと,自分は頭が悪いと思い込んでしまう.でも,落ち込む必要はありません.

良いアイディアなんてそうそう出てくるものではありません.でも大丈夫,周りを見渡せば,たいした研究もしていないくせに威張っている人もいるし,楽しそうにしている研究者もたくさんいます.それに,野球で生涯3割バッターがほとんどいないように,生涯輝いている研究者もほとんどいないのです.10年に1回研究でヒットを飛ばせば良い方かもしれません.壁にぶち当たろうが,論文を却下されようが,研究が好きならばそれで良いのです.中谷宇吉郎は「君達,雪や氷の研究がメシより好きでなければ,良い仕事は出来ませんよ.寒さが身にしみるだけです」,「君,仕事は楽しみながらするもんですよ」と言った.(中谷宇吉郎集第6巻,月報6,岩波書店(2001))また,中谷の師である寺田寅彦は言っています.------頭の悪い人は,頭の良い人が考えて,はじめからダメに決まっているような試みを,一生懸命に続けている。やっとそれがダメだと分かる頃には,しかしたいてい何かしらだめでない他のものの糸口を取り上げている。そうしてそれは,そのはじめからだめな試みをあえてしなかった人には決して手に触れる機会のないような糸口である場合も少なくない。(「科學者とあたま」寺田寅彦全集第四巻,岩波書店(1937))

数学者の藤原正彦は「成功と性格」(数学者の休息時間,新潮文庫,1993)の中で,数学者として成功するためには,野心,執拗さそして楽観的なことを挙げている。またこんなことも紹介している.数学者として成功するには5割が頭で5割が性格だ.遺伝学者は性格と体力が10割だと言った.理系の他分野の研究者に聞いてもおそらく性格が5割以上とこたえるのではないかと結んでいる.そうです,研究者を目指すならば,頭よりも性格や体力の方が大切なようです.

 最後に,自分はあいつよりもましだと常に下ばかり見ている君,それでは良い仕事は出来ませんぞ.(H)

・・・・・・・・過去のブログ・・・・・・・・・
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